無料会員登録ボタン
マーケティング戦略・商品の「次の一手」を読んで勝つ
【プロダクトコーン理論−サルにもわかる基礎マーケティング4】 2013.7.16

シンプル・イズ・ザ・ベスト:プロダクトコーン理論

プロダクトコーンプロダクトコーン理論は私独自のマーケティング理論で、コンサルタントとしては大ヒット商品です。様々な企業で採用されたり、話題になったことはコンサルタントとしての財産です。

Googleで「プロダクトコーン」と検索すると約66万件ヒットします。一方、マーケティングの基礎中の基礎「プロダクトライフサイクル」は約40万件。単純に比較できませんが、古典と並ぶほどの知名度を得るなんて、提唱者冥利に尽きるというものです。

そもそも、この理論を最初に作ったのは私が30歳の頃です。
メーカーのブランドマネジャーとして、商品開発で色々と悩んでいた時でした。
その悩みの一つが商品の定義でした。
当時は「一次機能・二次機能」や「機能的機能・心理的機能」といった2つの要素で商品を定義する考え方しかありませんでした。

しかも、それぞれの要素には何の関係も脈絡もありません。

「一次機能(や機能的機能)は、商品のスペックに相当する」
「二次機能(や心理的機能)は、デザインやネーミングに相当する」

これだけの定義で商品の要素を分割して、何の意味があるのだろうと思っていました。
チェックリスト以上のメリットがなかったのが本音です。

そこで、思いついたのが、要素を3つに分けることでした。

●規格
●ベネフィット
●エッセンス

artc20130701の3つです。
正直いえば、3つともすでにマーケティングに存在する概念です。なんら新しいことはしていません。単に、それぞれの要素をくっつけただけです。

しかし、後で説明するように、これらの要素が有機的に結びつくと、現状分析だけでなく、今後どうするかの予測に使えるようになることを発見しました。
それらをまとめて、他のマーケティング理論とさらに連携させ、体系的に整理したのがプロダクトコーン理論の理論たるゆえんです。

その当たりの説明は後にして、まずはプロダクトコーン理論の説明をしましょう。
プロダクトコーン理論は3つの要素で商品の定義をしようぜ、という提案です。

規格:プロダクトコーン理論の要素1

商品の規格、スペックです。
本来は数字や専門用語の羅列です。
スマートフォンなら、CPUは APQ8064T 1.9GHz、メモリ16GB、液晶5.6インチ、重さ125gなどなど。
飲料なら、ハトムギ、大麦、どくだみ茶、16種類の素材をブレンドしたカフェインゼロなどなど。

食品なら、エメンタールチーズをブリオッシュでサンドして、黒いダイヤの異名を持つ黒トリュフをフォン・ド・ボー仕立てにしたトリュフソースをかけた、1,000円のファストフードハンバーガーなどなど。

規格は昔から使われてきた、商品定義の老舗とも言うべき要素です。
軽く歴史を振り返ります。
日本の高度成長期、1960年代から1970年代は「モノを作れば、それだけで売れた時代」でした。
家庭の収入が上がり、次々と新しい商品が登場し、生活が豊かになる。しかし、その一方、戦後まだ15年しか経っていなかったので、製造設備は貧弱で量産ができません。
輸入品に頼ろうにも外貨がないので不可能。

そんな時代の商品定義の主役は「工場の定義」でした。
つまり、

●何g
●何cm
●カラーはDICの何番

が商品の定義です。
スペック・規格です。

さて、高度成長期が終わって、作るだけでは売れなくなった1980年代以降、メーカーは途端に困りました。
お客さんにどうやって売るのか。どうしたら買ってもらえるのか、さっぱり分からなかったからです。だって、そんなことを深く考えなくても商品が売れていたのですから。

一方、高度成長期時代に売上げを大きく上げたので、会社の図体だけは大きくなりました。
従業員も何十倍にも膨れあがりました。
扱う商品の数も増えています。
組織も細分化します。
営業部、広告宣伝部、商品開発部、生産部、研究開発部など、新しい部署が次々に新設されていました。

すると、困ったことが起きます。
中小企業の頃は営業から生産まで、1人がすべてをこなさなければなりませんでした。しかし、商品数が少なく、技術も高度ではなかったので、一人が自社商品を理解することはさほど難しくありませんでした。
ソニーだって、松下だって中小企業の頃があったのです。
現在でも、中小企業は一人何役も掛け持ちです。

ところが、社員が増えて組織が細分化すると、そうは行きません。
広告宣伝部は広告専門の部署ですから、広告理論や広告実務の勉強をしなければなりません。
GRPとはなんぞや。
効果的なクリエイティブはどうやって作る。
広告代理店にはどう指示したらいい広告を作ってくれるか。
製造部や営業部はやってくれません。広告宣伝部の社員が勉強するしかありません。

すると、広告宣伝部の社員は、自社商品に関する勉強時間が削られます。
新製品の資料には一通り目を通しますが、新技術や新成分を十分に理解することなく、広告を作り、流すことが彼らの責務となります。

特に、細かい最新技術で作られるパソコンや電子機器などは、素人なのにユーザー(マニア)の方が、当のメーカーの企画部門の社員より詳しいなんて珍事が起きます。

一方、研究開発部は技術が高度になってしまったので、技術の進化を次々に進めなくてはなりません。いきおい、営業の知識はおろそかになります。店頭で自分が作った商品がどう商談されて、店頭でどんな扱いを受けるのかを知ることがありません。

それでも、一見、仕事は回っていきます。
良い商品(と彼らが考えるもの)を作ることに没頭すれば、あとのことは広告宣伝部や営業部がやってくれます。
いや、技術部門が営業に口を挟もうものなら、営業からは「余計なことを言うな」と叱られますから、面倒くさいので販売店や消費者のことも考えなくなります。
組織が大きくなればなるほど台頭するセクショナリズムです。

かくして、商品が売れないと

「技術部門がロクなものを作らないから、売りにくい」
「営業部門がちゃんと販売店に商品の良さを訴えないから、売れない」

とケンカになる。
もっとも、現在でも日常の光景ですが…

さて、一方の私たち生活者。
商品があふれ、次々と新製品が世に送り込まれます。生活者は商品を選り好みしようとしますが、規格の細かいことなんて知りもしませんから、似たような商品ばかりに見える。
また、専門用語なんて知らないし、知る意欲もない。

そうなると、従来のようなスペックや規格を商品の定義にするには、企業側、生活者側ともに不都合が起きるようになりました。

そこに登場したのがアメリカの広告代理店が提唱する「コンセプト」という概念です。要するに「生活者が使う普通の言葉で商品を定義しようよ」提案です。

「連続再生時間10時間」
ではなく
「『スタミナ』ハンディカム」
「エンジン●●馬力」
ではなく
「加速スピードが出る新車」

コンセプトは一時期、もてはやされました。
企業側は勉強量が少なくて済む、生活者側はややこしい専門用語や数字から解放される。

しかし、まもなくして、コンセプトも限界が出てきました。
なにせ、所詮言い換えです。氏素性は工場の定義ですから、規格を言い換えたところで「だから何?」と言われることも多くなります。
得をしたのは製造や技術部門以外の営業や広告宣伝部の社員くらいです。面倒な専門用語を覚えなくてもいい。

一方の消費者は

「スタミナってどれくらいもつの?え?10時間?
それってどれくらい長いの?
自分が一日に使う時間なんて覚えてないよ」
「スピードなんて出さないから、そんな新車いらない」

となります。


【以下、小見出しと最初の段落のみをご紹介します】

ベネフィット:プロダクトコーン理論の要素2

そこに登場したのがベネフィットという概念です(正確には昔からありましたが、マーケティングの世界で人気が出たのが、この頃です)。
ベネフィットとは「生活者が得することやモノ」です。

「24時間開いているコンビニ」
ではなく
「食べたいときに食べたいものを、夜中でも買える」

エッセンス:プロダクトコーン理論の要素3

さて、商品には3つ目の側面があります。
イメージです。

「おしゃれな」
「まじめな」
「気軽な」

これをプロダクトコーン理論ではエッセンスと呼びます。
マーケティングを知っている人には

「ブランドキャラクター」

と言った方が分かりやすいし、広告に従事している人は

「トーン&マナー」

が近い概念です。

市場の一歩手前を予測できるプロダクトコーン理論

この3つを定義するだけでも格好のチェックリストになります。
事実、プロダクトコーン理論がヒットした理由のひとつが、チェックリストとしての使われ方でした。
新商品、既存商品をプロダクトコーン理論でチェックして、もれがないか、差別優位性があるかなどが検討しやすいからです。

さて、プロダクトコーン理論の真骨頂はここからです。
それぞれの3つの要素は時代によって、生活者の変遷によって

●規格

●ベネフィット

●エッセンス

と移って行くからです。

プロダクトコーン理論とイノベーター理論の結合

なぜ、こういうことが可能なのか。
なぜ、規格からベネフィット、ベネフィットからエッセンスに移っていくのか。
そのカギはイノベーター理論にあります。
図を見て下さい。

いちばん左端の三角形は先日、記事にしたイノベーター理論です。
イノベーターからアーリーアダプタ、フォロワーに商品が広がっていきます。

左から2番目の長方形は、アメリカの社会学者シスレスワイトの結論心理を図式化したものです。
シスレスワイト博士はこう主張します。

「教育水準の高い人は、自分で判断をしたがる。
教育水準が低い人は、他人の判断をあおぎたがる」

プロダクトコーン理論とプロダクトライフサイクル理論との融合
−市場環境と訴求ポイントが自動的に導き出される

さて、プロダクトコーン理論とイノベーター理論が繋がれば、他の理論とも繋がります。
先ほど、デジカメの例で「ほんのちょっとしたきっかけで、規格からベネフィットに移る」と言いましたが、実は「きっかけ」には法則性があります。
それは普及率です。

図を見て下さい。
プロダクトライフサイクル理論とイノベーター理論の関係を示した図です。プロダクトライフサイクル理論については別の機会に記事にする予定なので、ここでは簡単に説明するにとどめます。

プロダクトライフサイクル理論はマーケティングの古典的な理論の一つです。
商品や産業には以下の4つの段階があると主張するものです。
人間の成長になぞらえて「ライフサイクル=人生の段階」と名付けられました。

歴史は繰り返す−ぐるっと回るプロダクトコーン

プロダクトコーンは一旦エッセンスに行き着くとどうなるか。
ぐるっと回って規格に戻ります。ベネフィットに逆戻りしません。

例えば、アサヒ飲料の三ツ矢サイダー。
従来はグリコポッキーのような、青春のシーンを切り取ったテレビ広告が主流でした。中学生の女の子たちが海辺をはしゃいで、三ツ矢サイダーをゴクッと飲む。
それを変更し「5回濾過して、磨いた水を使っています」キャンペーンを実施。パッケージにも堂々と表示したのです。
エッセンス訴求から規格訴求への変更です。
その結果、売上げは30%増加しました。

自社商品をプロダクトコーンでチェックしてみよう

プロダクトコーンはマーケティング戦略に使うだけではありません。
デザイン開発、コンセプト開発、広告開発などマーケティングのあらゆる分野で応用ができます。
例えば、みなさんが所属する会社の商品。
パッケージデザインやパンフレット、WEBページからプロダクトコーンの3つ、規格、ベネフィット、エッセンスを作ることができますか?

例えば、これを見てください。
キリン生茶のパッケージ写真です(画像をクリックすると拡大し、文字が読めます)。
表には
「さわやかな香り」表示されています。ベネフィットです。
「生茶葉凍らせ製法」と書かれています。規格です。
全体のトーンはお茶の緑とネーミングの「生茶」が醸し出す「自然・天然」です。
ちいさい面積なのに、きちんとプロダクトコーンの3つの要素が入っています。

プロダクトコーン理論とDCCM理論の融合
−差別優位性のチェック

さて、せっかくプロダクトコーンの要素が書かれていても、差別優位性がなければ意味がありません。他にいくらでも似たような商品があるのですから。
食品では「おいしい」としか書かれていない食品のいかに多いことか。

ということは、つまりプロダクトコーンと差別優位性を掛け合わせて考えるのが良いということです。
私の独自理論のひとつDCCM理論と掛け合わせるとすっきりします。
規格で差別優位性をチェックする、ベネフィットで差別優位性を確認する、エッセンスで差別優位性を見る。

理想的にはそれぞれ3つの要素が差別優位性を持っているのが望ましい。

プロダクトコーン理論の開発秘話

最後の章として、せっかくざっくばらんなメルマガなので、ちょっとした裏話をして終わりましょう。

規格、ベネフィット、エッセンスの3つを組合せたら商品の定義になる。
それに気が付いた私は最初は並列に並べていました。今のような三角形ではありません。単なる表です。

これはこれで便利でした。
少なくとも、旧来の「機能的機能」「心理的機能」の改善版になり、私のメーカー時代の仕事には大変重宝しました。

私の理想はお手軽に使えるレゴのような理論

私の理想はレゴ・ブロックのように、様々なマーケティング理論をみなさんが組み合わせて、ひとつの作品(戦略)を簡単に作ることができる環境を整えることです。
前述したプロダクトコーン理論、イノベーター理論、プロダクトライフサイクル理論、DCCM理論の組合せは、まさにその一例です。

レゴのパーツだから一個一個はシンプルでないといけないと思っています。
だから、ひとつひとつの理論は極力シンプルにしています。イノベーター理論だって5つのグループを3つにしました。
(複雑な理論だと、自分が混乱してしまうのも大きな理由の一つですが(笑))

menuボタン backボタン nextボタン 無料会員登録ボタン

Copyright ©1998 -  SYSTRAT Corporation. All Rights Reserved.