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【プロダクト・コーン事例2】
ソニー・プレイステーション

任天堂スーパーファミリーコンピュータ(以下、スーファミ)に代わり、今や累計1,000万台と言われる、家庭用ゲーム機のトップブランド、ソニーのプレイステーションの事例を次に上げよう。

94年12月の発売当初は、技術的にはかなり古くなったスーファミに対抗して、1670万色もの色が使えるだの、当時のパソコンより性能の高い32ビットRISCチップを使って、ポリゴンというリアルな画像を表示するのが得意、などと規格の中でも相当技術的な訴求をしていたが、一般向けにはすぐに方向転換をした。

それは、ひとことで言えば「たくさん売れている」という1点である。「行くぜ100万台!!」などのメインコピーは、まさにそれを表現したものだ。
従って、まず、規格は「たくさん売れているソニーの家庭用次世代ゲーム機」となる。

ゲームは、ミニテトリンなどの一体型は別にすれば、ゲーム機だけでは成立しない。その上で走るゲームソフトがなければ、ただのプラスチックの箱である。それだけに、どんなソフトで遊べるのか、が生活者にとっては極めて重要な判断基準となる。しかし、生活者はハードの中身を理解するすべを持たない。だから、売れている台数が多ければ多いほど、おもしろいソフトが開発される可能性が高くなる、という判断をする(事実、そのとおりでもある)。

また、売れている台数が多ければ多いほど、友人とのゲームソフトの貸し借りがしやすくなり、結果的に安上がりでたくさんのソフトで遊べる。事実、クラスの仲間でプレイステーションか、セガサターンのどちらを買うかを決め、ゲームソフトもそれぞれ同じものを買わないように調整し合う小学生や中学生も少なからず存在する。少ないこずかいを有効に使う彼らの知恵は大人顔負けである。

従って、ベネフィットは2つ。

●(たくさん売れているから)おもしろいゲームがたくさん発売される
●(たくさんの人が持っているので)友人とゲームの交換ができるので、安価でいろんなゲームが楽しめる
●エッセンスは、「わくわく」だ。

ちなみに、ソニー・プレイステーションは、プロダクト・コーンに忠実にそのコミュニケーション戦略を変化させている。

「行くぜ100万台」キャンペーンが定着した後は、「パラッパラッパー」「IQ」などソニーの人気新作ゲームソフトの広告をメインにし、「おもしろいゲームはプレイステーションから」とまとめている。これはそれぞれ、プロダクト・コーンでいう「規格」と「ベネフィット」にあたる。

また、スーファミ時代の2大人気となったロール・プレイング・ゲーム「ファイナルファンタジーVII」が97年1月に発売、シリーズ初の300万本を突破したのに加え、これ以上に人気となった「ドラゴン・クエスト」の最新作がスーファミ用からプレイステーション用に変わる発表があり、業界およびRPGファンを驚愕させた。これらも「プレイステーションならおもしろいソフトで遊べる」を実感させる大きな役割を果たす。

図表a-1

PC−9800シリーズの失敗とプレイステーション

さて、実は、ソフトの数が多いために、他社よりも圧倒的に優位な立場にあった商品が過去にもあった。NECのPC−9800シリーズである。競合他社は、「数が多ければいいと言うものではない。問題は、質の高いソフトがどれだけ揃っているかだ」と懸命に98を叩こうとしたが、すべて失敗に終わった。

一方、なぜ生活者はソフトの数が多い98をこぞって買ったのか。

それは、ソフトの種類が多ければ自分の欲しいものにピッタリと合うものが見つかるのではないか、という期待があるからである。事実、「ソフトは数ではない、質だ」と叫ぶ競合メーカーで、使いやすくて質の良いソフトは、マッキントッシュ以外には、あまり見当たらなかったのも確かであった。

皮肉なことに、市場シェア60%を誇った98の天下が崩れた発端も、海外の豊富なソフトが使えるDOS/V機であった。

プレイステーションで見られたことがパソコンでも起こった。98天下の2つ目の理由の「ソフトを友人から貰える」「ソフトの使い方を知っている友人が周りに多い」という、他人とのかかわり合いの深さによる売りのメカニズムである。

結局、家庭用ゲーム機はパソコンとまったく同じ構図なのだ。理由は簡単。機械の構造が同じだからである。つまり、ソフトとハードが別物で、かつ、生活者はハードはソフトを消費するためのもの、と理解している、という点が同じだからなのだ。そうなると、思い出すものがある。そう。家庭用ビデオのベータとVHSの競争である。結局、ハードの優位性を中心に訴求したソニーが、ソフト重視のビクターに破れた、あの競争だ。

ソニーは、約20年かかって、ようやく、あの教訓を生かしたわけである。

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