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【プロダクト・コーン事例3】
デンタル・コットン

デンタルコットン

マーケティングの勝利をまざまざと見せつけられたのが、デンタルコットン、という犬用健康玩具である。
テレビなどでの露出もないので、ペットオーナー以外の読者にはなじみがないと思われるので、若干の説明をしよう。

製品としては、単なるコットン製の縄だ。
それ以外に何の工夫もない。だから、犬の食いつきを上げるような添加物や香料もなく、特別な素材を使っているわけでもない。とにかく、徹底してシンプルな「縄」なのだ。
だから、規格はまともに表現すれば「単なるコットン素材の縄」となってしまう。

いくら、規格だけではモノが売れない、と言っても、これでは身も蓋もない。
では、これをどう使うか。
犬がおもちゃとして遊びながら噛んでいるうちに、歯のすき間にコットンの繊維が入り込み、自然に歯磨きができる、というものなのだ。
従って、規格は「歯磨きのいらない、コットン素材の犬用歯ブラシ」となる。

これが、1本1,000円もするのに大ヒットした。発売当初は、量販店のバイヤーから「こんな何の変哲もない縄なんて、田舎に行けば只でごろごろしている。1,000円もの値付けをして、売れるわけがない」と悪評だらけだったという。

ところが、デンタルコットンは生活者以外の大方の予想を裏切った。
メーカーは売上を公表していないが、ペット用品の世界ではメガヒットとなった。数千万円の売上の商品が大半を占めるペット用品市場で、推定10億円を叩き出したのだ。
今や、犬猫用歯磨き(特殊な素材の歯ブラシを使用する)や歯茎を鍛えるための天然ゴムをデンタルシリーズとしてラインナップした結果、ペットショップや郊外のホームセンターのペット用品コーナーで、メーカー独自のコーナー展開ができるほどに成長したのである。

類似品も登場したが、素材がシンプルなだけに、先行メーカーの強みや流通対応力がモノをいう。「歯の健康」市場で推定90%のシェアを取っていると言われる。

成功の背景

このデンタルシリーズがこれだけ市場に受け入れられたのには、当然、生活者のニーズと従来のメーカーの対応の弱さがあった。

日本のペットは犬800万頭、ネコ600万頭の1400万頭と言われている。
特に、犬の場合、ペットフード市場の急激な普及により、年々柔らかい食事がメインになってしまっている。
ところが、犬の歯やあごは映画やTVで見るように、元来、獲物の骨や肉を砕き、噛みちぎる力を持っている。ペットとして人間に飼われるようになっても、その構造はまったく変わらない。試しに犬用のガムを噛んでみたらいい。人間には文字通り「歯が立たない。」牛の筋などを乾燥して固めたガムを、犬は遊びながら、ものの見事にかみ切って食べてしまう。

それが、いきなりコーンビーフのような柔らかい缶ドッグフードや、せんべいのようなカリカリしたドライフードだけで育てるようになる。歯やあごの力がなまるのは当たり前だ。
実は、それだけではない。歯の病気になると、内蔵疾患などの病気を誘発しやすいのだ。かくして、犬の90%は何らかの歯の健康を損なっている。

一方、ペットの歯の健康に関する商品は、というと、指にはめて歯を磨く「歯ブラシ」、前述の犬用ガムしかない、という状態である。従って、意識の高いペットオーナーは、骨を肉屋から調達するか、子供用歯ブラシで無理矢理ペットの口をこじあけ、歯を磨くくらいしか方法がなかったのである。

そこに、デンタルコットンである。売れないほうがおかしい。

図表b-2

個性的なメーカー

ただ、どんな方法でもこの商品が売れたかというと、それは疑問だ。量販店バイヤーが指摘したとおり、単なる綿の縄を1,000円で売ろうというのだから。

そこで、メーカーの工夫が、パッケージ上のコピーにある。

「遊びながら、歯もきれい、息もきれい」

つまり、規格では何の変哲もないコットン縄を、ベネフィットを明確にすることによって、商品として成立させてしまったのだ。

ちなみに、東京ペットというメーカーは、日本では珍しい、ベネフィット訴求型のマーケティングを得意とする会社である。今回のデンタルコットンをはじめとして、一世を風靡したペット用の合成樹脂製ブラシ、巻き取り式リード(首縄)など、ユニークな商品を規格ではなくベネフィットを中心として商品に仕立て上げている。

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