■コンサルタントになるには-その3:シストラットの場合

さて、このシリーズの最後に、シストラットでのケースを具体的に、面接の質問、という形でご紹介します。もちろんこれは普遍的なものではありません。シストラットだけのユニークな部分もありますので、そのおつもりで。

同年代と比べて自分の「良いところ3つ」「悪いところ3つ」教えてください

「悪いところ3つ」は言える人が多いのですが、良いところをきちんと言える人は少ないものです。
広告代理店では「クライアントの商品を好きになることが、仕事の第1歩」と言われますが、生活者の代表であるコンサルタントは、良くも悪くも客観的な目でクライアントの商品を見る必要があります。

「冷たい認識と熱い対応」は私の信条ですが、これを実践するには冷静な目が大切です。日本人の美徳意識や遠慮意識はまだまだ若い人にも息づいていますが、それを乗り越えて自分を観察できなければ、他人(クライアントの商品)を観察することはできません。

実は、もうひとつ理由があります。

コンサルタントはあくまでも個人が前面に立ちます。その時に、自分の個性をきちんと意識しないと仕事になりません。体育会系の体躯と容貌の男性が女性下着のコンサルテーションをしようとしても、説得力がないのは当然でしょう。

私の知り合いのコンサルタントは、自分はしゃべりが下手であることを十分に理解しています。だから、彼はそれを補うために企画書や報告書を文字主体で作成します。
もうひとりのコンサルタントは以前演劇をやっていたため、多人数の聴衆を相手にするプレゼンテーションが得意です。従って、彼の報告書はOHP形式で文字も図も簡潔なものが多くなります。

「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」。クライアントは「敵」ではありませんが、コンサルタントの資質に関して言えば真実のことばです。

なお、この質問のバリエーションとして、たった今、会ったばかりの「面接担当者の良いところ3つ、悪いところ3つ」を上げてもらうこともあります。

「自分を冷静に観察できているか」という目的の他に、それぞれ3点の概念がきちんと分割されているかどうかを回答から探っています。

例えば、「元気であること」「周囲を明るくすること」が良いところだとしましょう。
この2つは独立した概念ではなさそうです。元気「だから」周囲を明るくすると考えると「周囲を明るくすること」は「元気である」ことに従属したポイントであり、一見2つの良いところを回答しているように見えても1つしか答えていないということになります。

もちろん、私は独断で決め付けることはしません。「…と思うんだけど、それぞれは別のことを言っているのかしら、それとも同じ事?」と聞き返します。
自分の考え方を言葉にして表現する力を初めから持っている人は、そう多くありません。それは、幾らでも教育できます。だから、その場でディスカッションをして確認します。私にとって、その過程もその人(応募者)を知る大きな材料になるのですから。

話はずれますが、「良いところ3つ、悪いところ3つ」法は便利なので、入社1年目の社員の教育などにも多用します。
例えば、プレゼンテーションが終わった後、オフィスに帰る途中で記憶が新しいうちに「さっきのプレゼンテーションの良いところ、悪いところ3つずつ教えて」というように確認していきます。

ここで大事なのはしつこいくらいに毎回実施することです。
最初は大したコメントができないのですが、回を重ねていくうちに冷静にプレゼンテーションを見ることができるようになります。
また、私や先輩のプレゼンテーションを聞いていても、「またあれを聞かれる」と思えば、良いところ、悪いところを探しながら観察するようになります。これが、自分がプレゼンテーションの場で主役になったときに大きな効果をもたらしてくれるのです。

「あなたを売ってください」ゲーム

次の質問はシミュレーション・ゲームのようなものです。

「あなたを男性に売ってください。
ただし、『売る』という概念は、お金に限らなくても結構です。
買う人の時間や努力、気持ちなどをあなたに与えることができれば、「買う」といしう概念に含まれます。ただし『顔を売る=有名になる』という図式は除外します。
男性といっても幼稚園児からおじいちゃんまで、選択はあなたの自由です。
「買う人」の目的の設定も自由です。
文字通り『一晩売る』というのでも、『自分のパーソナリティ』を売るのでも結構です。」
「さて、そのために、武器をさしあげます。1つはテレビコマーシャル、もうひとつは電車内の中吊り広告(ポスター)です。
ただし、どちらかしか選べません。
その代わり、一流のカメラマン、一流のコピーライター、一流のディレクターをつけてあげましょう。
あなたの好きなクリエイターを指定して貰っても構いません。」

「まず、第1の質問です。
テレビCMと電車の中吊り、どちらを選びますか?」


「次の質問です。

その広告の中で、あなたは何をいいますか?
これは、キャッチフレーズと考えていただいても、コンセプトと考えてもどちらでも結構です。キャッチの場合は、当然コピーライターが書き直してくれますので、安心して答えてください」


「この広告の目的はあなたを男性に売ることですから、受け付けの窓口が必要です。従って、受付特別事務局を作り、そのフリーダイアルの番号をその広告に載せましょう。

そこで、3番目の質問です。
受付の電話の鳴り具合はどんな感じでしょうか?
『ジャンジャン鳴り止まない』『ほとんど静かなまま』
等のような表現で結構ですので感じたままを教えてください。」


「さて、最後の質問です。

その電話はどんな種類のものでしょうか?
例えば、『いきなり注文する客からの電話』『どんなものを売っているのかの問い合わせの電話』『ひやかしの電話』等、様々な種類が考えられますが。
そして、それぞれの種類の割合を大体で結構ですので教えてください。」


このゲームに正解はありません。

どんな趣旨なのかは皆さんの想像にお任せします。

ただ、1つだけお話しますと、「広告コンセプト」で良くある回答は「一度会ってみて下さい(試してみてください/食べてみてください)、私の良さがわかります」式のものです。
こう答えた方は減点です。

イマジネーション・ゲーム

最後のパートです。ここではまず、「最近印象に残った、街角で見かけた人について教えてください」という質問から始まります。もちろん、この人は赤の他人でなければいけません。

ひととおり、その人のことを聞いた段階で、次の質問をします。

「では、その人が
『やっていそうなこと』
『持っていそうなもの』
『行きそうな場所』
『持っていそうな趣味』
等々何でも結構ですので、思いつくままに教えてください。」

この質問では、できるだけ多くの事柄を言ってもらいます。当方も本人も忘れないようにその場でメモを取ります。
最低でも30個くらい言い終えたらストップし、最後の質問をします。

「その人の人となりをあなたの想像で列挙してもらいました。
このリストを見ていただいて結構です。
一言でいうと、この人はどんな人ですか?
『この人は●●●の人です』という形で教えてください。」

この一連の質問は、面接者の人に対する観察力と想像力を見るのが目的です。
鋭い、鈍いというよりも、それぞれの質問に対して長い時間考え込んだり、少ししか項目が出てこなかったりしなければ良いのです。そして、その過程で対象者がどれだけ他人というものを観察しているか、想像を膨らませているかを見極めます。

例えば、「買いそうなもの」や「行きそうな場所」等の項目では、どれだけ固有名詞が出てくるか、は大きなポイントになります。
「めがねをかけていそう」では、その人のプロフィールはわかりません。
メガネ・スーパーで買ったものなのか、ブランド物のめがねなのかで、その人のイメージは大きく変わります。もっと言えば、同じブランドでもサンローランかダンヒルかでも、その人のイメージが異なる方向に膨らむことになるのです。

コンサルタントに限らず、ビジネスの世界では情報が常に不足ぎみです。例え、回答に1時間もかかってしまうほどのボリュームの調査を実施しても、そこに現れる生活者像は、ほんの一部あるいは画像の粗いデジカメで撮影したような大ざっぱな像でしかありません。

それを補って、生活者像の他の部分を補完したり、粗い画面を補正して滑らかな像にするのが心理学であり、また、コンサルタント(リサーチャー)の想像力なのです。

ただ、「観察」という「事実」がなければ「夢想の想像力」になってしまいます。
だから、この2つを探るために、「イマジネーション・ゲーム」が必要になる、という訳です。

面接での質問のボリュームが多いのに気がつかれた方もいらっしゃると思います。

観察力と想像力がメインの条件

1対1でこういった質問をベースに面接をするので、1人の面接者につき優に2時間はかかります。
しかも、面接者の回答に神経を集中し、質問事項や突っ込むポイントを考えていくので、1日に2人もやるとぐったりしてしまいます。

それはともかく、コンサルタントの条件の回答は既にしてしまいました。

人に対する観察力と想像力、この2つが最も重要な条件なのです。

最後の「イマジネーション・ゲーム」はこれら2点を直接判断するものですが、「いいところ3つ」法も、「あなたを売ってください」ゲームも、結局「観察力」と「想像力」を様々な角度から見るためのものと言っても過言ではありません。

いくら、論理的であっても感性が優れていても、コンサルタント特にマーケティング分野のコンサルタントは「人というもの」が理解できなければ何もなりません。クライアントの担当者も「ヒト」、生活者も「ヒト」であることは忘れてはいけません。そういう意味で言えば、コンサルタントは最も「泥臭い」仕事のひとつでもあります。

生活者心理を追っていく時、従来のマーケティングでは人を「群」として把握する社会学がベースでした。その限界を感じた時、私は、個人の心理を研究する心理学をマーケティングに大きく取り入れるようになったのです。

データの読み方や論理性などは会社に入ればいくらでも教え込むことができます。
でも、ヒトに対する観察力や想像力は企業(私)が教えられることは極めて限られます。その人自身の普段の生活の中で少しづつ育まなければならない資質なのです。

普段の好奇心

ではどうしたら、この2つの資質が伸ばせるのか。
正直言えば、シストラットではこの2つを既に持っている人にしか興味がないので、「どうすべきか」という問いに答えるだけの十分な経験を持っていません。

ですから、「こうすればいかが?」という方策をリストアップするに留めたいと思います。

●好奇心が強い人ほど、2つの資質が高いものです。もっと言えば、ざっくばらんな言い方で「すけべな人」という言葉もよく使います。
例えば、新しいパソコンを見つけたら、「へぇ」とのぞき込むのが「好奇心の強い人」。
「ちょっといいかしら」とキーボードを触り出すのが「すけべな人」です。
後者のほうがより2つの資質が強いのは言うまでもありません。

●好奇心と(本当の意味での?)スケベ心を満たすのなら、追跡作戦がおもしろいかもしれません。
これは、一時「タウンウォッチング」として流行したもので、自分のテーマにあった人(女性)の後をずっとつけていく、というやり方です。
私がメーカー時代によくやりました。
渋谷などの繁華街なら比較的つけやすいので、ストーカー等と騒がれることもありません。
ただ、私の場合、1ケ月に150人の後をつけて、3人に痴漢と間違われましたが。

その時に、ただ、漫然と彼女達を観察したりメモを取るだけでなく、彼女の概観から、家族構成や勤め先、趣味、すんでいる場所やその様子などを勝手に想像するのです。知らない人なのだから、正解はありません。

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