■安いからモノが売れるのか【一般商品とキャバクラ・クラブ】

トレンディ

安いものが売れている

手元に「日経トレンディ7月号」があります。
日経トレンディは相当価格の話題が好きなようで(正確にはトレンディの読者というべきですが)、半額商品の話題などを過去にも何回か特集しています。
今回の不況で価格という存在はずいぶん見直されています。
時代を反映する雑誌として、当然といえば当然の特集です。

確かに日本マクドナルドは元気です。
その原因はご存じ半額セール。
ハンバーガー90円の時などは、大量に買い込んで冷凍庫で保管するという強者もいましたが、大半は他の商品も買い込むので、売り上げだけでなく営業利益もうなぎ登り。

ヤマダ電機も元気です。
その原因は圧倒的な安さ。
同じディスカウントストアの城南電機の倒産を尻目に、今や安売りの町ではなく観光地となった秋葉原、そして隠れた安売りの町として人気はあるものの、統一価格で店に面白みがない新宿西口をしのぐ勢いです。

100円ショップが盛況です。
シストラットのオフィスがある東京恵比寿のスーパー松坂屋ストアは、2階の半分以上の売り場を100円ショップに変えてしまいました。
100円ショップコーナーで山と積まれている電池やボールペンと同じものが、2メートル先の売場の棚で3倍の価格がつけられています。

発泡酒が大ヒット。説明は不要でしょう。

「安ければ安いほど良いのは当たり前。これらの商品が売れて当然」

という声があります。
「そうだよね」とうなずきかけてしまいそうですが、本当にそうなのでしょうか。

カラオケボックスは1時間100円と自分の首を締めているとしか思えない価格設定をしているところもありますが、売り上げは減るばかり。
一方で、高額商品もそれなりに売れています。
「価格が安ければ良い」という訳ではなさそうです。

100円ショップは驚きを売っている

「それは森さん、当たり前だよ。安かろう悪かろうでは、今の消費者は動かない。
『安くて質が良い』のが今の流れだもの。
100円ショップだって、安いだけじゃなくて、『今まで300円、500円のものが100円』だから売れるんだ」

そのとおりです。
100円ショップのトップ企業、大創産業社長は

「100円ショップは、商品を売るのではなく、『えっ?こんなものが100円なの?!』という驚きを売っています」

と言い切っています。

そういう意味では良い時代になりました。いや、バブルの垢がそぎ落とされて「まともな時代」になりつつある息吹を感じます。

せっかくの機会ですから、今回は価格について考えます。
価格はマーケティングでは最も研究が遅れている分野です。
マーケティングを構成する要素として4P「」が代表的なものですが、その中でも製品戦略に間する研究が最も進んでおり、様々な理論や調査手法が開発されています。
また、広告・販促分野は電通のメシの種なので古くから研究されています。

●製品戦略(Product)
●価格戦略(Price)
●流通・営業マン戦略(Place)
●販売促進・広告戦略(Promotion)

しかし、価格となると「価格弾力性」といった、経済学からの転用理論くらいしかないのが現実です。実にお寒い限りです。
ただ、限られたスペースで、価格にまつわる事象すべてを網羅するのは現実的ではありませんので、テーマを絞ります。

「なぜ私たちは価格が安い、高いと感じるのだろう」

が今回のメインテーマです。

前半では一般的な商品をベースに価格を紹介します。
後半では、価格づけの中で最も複雑(魑魅魍魎ともいいます(笑))とされるサービス業、特に、ナイトビジネスの代表格であるクラブやキャバクラを題材に価格を説明します。

後半が身近な話でない女性読者の方、ごめんなさい。

「ナイトビジネスに行く男性は、こういったことを無意識に考えて行動しているのか」

と参考にしてください。

【ご注意】———————————
読者諸兄が大人であると同時に、今回のテーマの材料として最適と判断したので、クラブやキャバクラをピックアップしました(一部、おさわりパブやノーパンしゃぶしゃぶを含みます)。
社会通念上、必要以上に不快な表現や記事構成ではないと考えていますし、このメールマガジンはマーケティングがテーマである限り、社会現象を扱うのが宿命なので、現実に目を背けずに事例として上げています。

「オモテ10兆、ウラ10兆」とささやかれるパチンコ産業には負けますが、推定市場規模5兆円は、ビール市場の2倍、チーズ市場の50倍という大きさです。
目を背けても見えてしまう。
いや、マーケティングの観点でいえば直視しなければいけないサイズなのです。

一方で、見方によっては女性がある種の商品となっている業種の話であり、記事の構成上「パンチラ」「おっぱい」等の単語が平気で出現しますので、「セクハラ」と考える読者の方は記事の前半で購読を中止して頂くようお願いいたします。
逆に言えば、内容もその単語程度ですから過激な期待をしないように(笑)
【ご注意終わり】—————————

後半は私だけでは手に負えませんでしたので、burt氏を初め、Tokyotoplessのメンバーおよび羽鳥英夫氏の協力を頂きました。この場を借りてお礼を申し上げます。

価格についての素朴な質問

さて、まず質問です。
10,000円の新品パソコン。あなたは高いと思いますか、安いと思いますか。
5,000円のメモ帳。あなたは高いと思いますか、安いと思いますか。
(このメモ帳は特別な仕掛けはありません。単なるメモ帳です)

数字だけで判断すれば10,000円のほうが5,000円より「金額が多い」のにも関わらず、10,000円のパソコンは安くて、5,000円のメモ帳は高いと感じるのが一般的です。
どうも、価格というのは単独では安いとか高いなどと言えないようです。
「何に対して」という対象物がないと判断できません。

次の質問です。
800万円の12気筒のジャガー。高いと思いますか、安いと思いますか。
プラダというロゴは入っていますが、実のところビニール製のバッグが2万円。
ダンヒルの18金メッキのライター10,000円。
高いと思いますか、安いと思いますか。

これは、票が分かれそうです。
例えば、私はクルマは走れば良いと思っているので、ジャガーだろうがカローラだろうが、「800万円のクルマ」そのものが高いと思います。
また、ファッションには無頓着なので、プラダだろうがシャネルだろうが、単なるビニール袋(失礼)に2万円も出す気はしません。

でも、私のようにヘビースモーカーでたばこを愛してやまない人間にとって、ダンヒルのライターは憧れの存在です。それが10,000円なら思わず買ってしまいます。

この質問で見る限り、どうも価格というのは「人によって」いや正確に言うと「関心の高さによって」高い安いが変わるようです。

キリがありませんので、質問形式はこの辺にしておきましょう。
少なくともここで言えるのは、価格とは「すべての商品に適用される絶対値」で判断されるものではないということです。

もちろん、高い安いと感じるからには人は判断基準を持っています。
ただ、その基準は商品分野によって異なります。
例えば、10cmの棒を見せられて「これは長いか短いか」と質問されても困るだけです。「爪楊枝にしては長いけど、おはしにするには短く持ちにくい」としか言い様がありません。

それぞれの商品分野で私たちが持っている判断基準ですが、実はこれも絶対的なものではありません。
例えば、現在では1巻の120分ノーマル・ビデオテープ200円は普通の価格です。相場といって良いでしょう。だから、1巻1,200円のテープは高い、と感じます。

でも、実は家庭用ビデオの出始めの20年前でのテープは1巻3,000円~5,000円もしていました。それが当たり前、つまり「相場」だったのです。
「相場」つまり「判断基準」とは時代とともに移ろう、相対的なものなのです。

(実は上級編として、いくつかの産業では時代による変化が少ないある種の判断基準があります。例えば、マジックプライスと呼ばれるもので、一般雑貨では350円です。これは、350円までならば衝動買いができる上限値です。今回は話がややこしくなるので割愛します)

ここで、少しまとめましょう。

●価格は絶対的な額で高い安いが決まるのではない。対象物が必要だ。
●価格は「その対象物(商品分野)」に対する関心の高さによって、判断が変わる。
●価格は商品ごとに相場という基準値があり、その範囲で判断される。しかし、基準値は刻々と変わることのある相対的なものだ。

心理的サイフ

サイフこれらのことがわかると、価格に関して「すべきこと」「考えるポイント」が整理されます。そのうち、今回はいくつか紹介します。

トップバッターは「心理的サイフ」と呼ばれる概念です。
私たちの頭の中には、あたかもサイフを持っているように「この商品はいくらまでなら払える」という「予算の振り分け」があります。

生活者は1人で幾つものサイフを持っています。
クルマ用、外食用、ファッション用のサイフ等々です。

それぞれのサイフの大きさは、ひとりひとりの価値観によって決まります。だから、年収1,000万円の独身男性でもクルマにはせいぜい500万円しか支払わないのに、年収240万円の若者が800万円の中古BMWをローンで買ってしまうことがあるのです。

実は、この傾向が顕著に出るのが、可処分所得の絶対額が少ない小中学生です。
彼らは、自分の興味のあることにはこずかいのほとんどを使います。というより、商品の価格設定が大人向けなので、月額のこずかい数千円の大半を振り分けざるをえないといった方が正解です。

だから、ゲーム好きな子たちがゲーム関連商品にこずかいの70%を当てるなど、良く見かける光景です。
彼らの間にコロコロコミックやポケットモンスターなどの大ヒットが出現するのも、「こずかいを集中して使い、余裕がないので冒険がしにくい」経済事情が大きく影響しています。

定価とオープン価格

もうひとつは相場に関する知識量です。
最近メーカー推奨価格(定価)を提示しないことが多くなりました。
さて、もしあなたが家庭用ゲームに詳しくない人なら、「1,500円のゲームソフトが出た」といわれても、ピンと来ません。普通のゲームソフトの価格を良く知らないからです。

でも、ここの読者の方なら、もし
「PentiumIII 400MHz/256MB 24GBが89,800円」と言ったら目の色を変える人が続出するでしょう(現実の商品ではありません。念のため(笑))

パソコンを始めたばかりの人なら、スペックを並べられても分かりません。「同じ性能で75%引きだ」というと、その安さが想像できます。つまり、知識量が多い人は価格を「絶対値」的な傾向で判断し、少ない人は「相対値」的な判断をします。

ディスカウントストアで「定価の30%引き」という表現ができなくなることは、商品について知識がある客にしか安さを伝えられないことを意味します。専門店化です。

客側から見れば、自分が詳しくない商品を買おうとするときには、その商品について勉強をしなければならないことを意味します。小売業の従業員の商品知識が、従来以上に求められます。

市場に普及しつくした商品にオープン価格が適用されていた頃はまだ問題がありませんでした。ほとんどの生活者は相場がわかっていたからです。

しかし、あらゆる商品にオープン価格が普及すると、構造的な変化が生じます。
それなのに、例えば、いまだに百貨店は「百貨」を扱おうとしています。

また、小売業に関する生活者調査をすると、「接客」が重視項目として評点が集中しますが、「調査の結果に基づき、今後『笑顔』と『お辞儀』そして『言葉遣い』を徹底させることにする」などとピント外れの通達を流すのが現状です。
これでは売り上げが上がらないのは当然です。

Value for money か Money for value か

生活者アンケートで「あなたはオーディオを買うとき何を重視しますか」等と聞くことが良くあります。選択肢には「性能、価格、使い勝手」等々を用意します。

そして、価格に反応する人が多いと

「これは問題だ。価格を下げなければいけない。
でもコストはそう簡単には下げられない」

と悩みます。
でも、これは順番が逆です。

Value for money

という英語の慣用句があります。日常でも良く使われる言葉です。
日本では「お買い得価格」というように、ディスカウントのイメージが強い翻訳が当てられています。

これだと、英訳すると

More value for less money

としなければなりません。
しかし、本来は「価格に見合った価値(ある商品だ)」が正しい翻訳であり、「価格と価値」は1対1の関係なのです。

つまり、「価格が高い」と感じるのは「(絶対値)としての価格が多い」のではなく、「(価格に対して)価値」が少ないと判断していることに他なりません。

価格は、その商品の魅力度の反映です。
鏡と言っても良いかも知れません。
別な言い方をすれば「商品の通信簿」の点数なのです。

【ここから先は「セクハラ」ととられる方にはおすすめできません。末尾のまとめにお進みください】

まとめの「価格には理由が必要」へジャンプする

同じ自分なのに、なぜ2万円も私に払うの?

キャバ1このセクションでは価格というものが持つ中身をちょっと覗いてみましょう。

以前、在籍していた外資系企業で、数人の同僚女性が夜のアルバイトをしていました。
私は普段から彼女たちと仲が良く、ざっくばらんな性格なので、安心してくれるのでしょう。居酒屋などで彼女たちと飲んでいると、一度は必ず聞かれる質問がありました(下戸の私ですが、当時はまだ少しはお酒が飲めました)。

「バイト先の自分も、ここでこうやっている自分もまったく同じなのに、いくら銀座にあるからといっても、店に来るお客さんは2万円近いお金を払っている。
でも、森さんは私の分をおごってくれても、5、000~6,000円で済んでしまうでしょ?。
何で男性ってああいうところに高いお金を払って行くのかしら?」

この発言は暗に「もっと高いところに連れていけ」というサインかどうかは分かりませんが(笑)、確かに素朴な疑問です。

クラブやキャバクラは疲れるので、できるだけ行かないようにしている私ですが、普通に考えるとこんな答えが返ってきそうです。

●高級なお酒が飲める
●高級な雰囲気でお酒が飲める
●若い女性がいるe.t.c.

キャバ2そして、「俺はこう思う」「でもあの人はこうだった」とどれが原因なのかをワイワイ議論します。
ところが、どれかひとつが原因というわけではありません。

いくら、最大の魅力を捜し当てたところで、その点だけであのバカ高いお金を払う理由にはならないの通常です。

いくつかの要因が重なって総合的な魅力が作られるからです。

そこで、女性が接待する店のサービスの要因を上げてみます。

●高級なお酒が飲める
●高級な雰囲気でお酒が飲める
●若い女性がいる
●若い女性と話ができる
●(キャバクラ等は)ミニスカートでパンチラが見えるかも知れない
●自慢話やバカ話をしても聞いてくれる
●女性にもてた気分になる
e.t.c.

そして、それぞれの代替方法を考えてみます。

●高級なお酒が飲める→
→ショットバーで飲めば3,600円(1杯900円x4杯)
●若い女性と話ができる
→会社の女性をランチに誘えば4,000円(2,000円x2)
●(キャバクラ等は)ミニスカートでパンチラが見えるかも知れない
→ノーパン喫茶なら30分で1,500円
●口説けるかも知れない
→テレクラに行けば2時間で4,000円

これらすべての代替手段の価格を足し上げると、例えば16,000円としましょう。
つまり、この価格がキャバクラやクラブの上限価格であり、標準モデルになります。
これらの価格要素すべてに対して価値を感じる場合は、

Value for money
(価値と価格が見合っている)

となるのです。

変化する標準モデル

タンクトップ実際は時代の流れや個人の嗜好によって、この標準モデルが変化します。

森さんのオフィスはジャニーズ事務所がある東京恵比寿なので、昼間から女子高生がコンビニ前の路上に座り込んでいます。パンチラなどは日常茶飯事です。

また、最近OLにもナマ足ブームが伝播しているので、通勤線では大人の女性のパンチラも拝める恵まれた環境にいます。
ここで、標準モデルのパンチラ分1,500円が差し引かれます。

彼の職場には女性やアルバイトの学生がたくさんいますし、彼は人気があるので彼女たちから良く食事に誘われます。
すると、彼にとってキャバクラで「若い女性とわざわさお話をする」価値はありません。上の例でいえば4,000円分です。

森さんは独身時代テレクラに通ったことがありましたし、ストリート・ナンパも若いときは良くやっていました。
ですから、キャバクラでなければ口説く相手が見つからないということはありません。
そこで、上の例の4,000円が差し引かれます。

従って、彼にとっては生活環境、そして、時代背景の両方の理由から、標準モデルのうち9,500円は「価値がない」サービスです。その結果、総額16,000円から差し引くと、彼にとってのキャバクラは6,500円の価値しかありません。

一方、斎藤さんは最近ストレスがたまり、愚痴を人に聞いて欲しくてたまりません。
でも、奥さんは聞いてくれないし、同僚や部下に愚痴をこぼすことは彼のプライドが許しません。
斎藤さんにとって、キャバクラは愚痴がこぼせる唯一の場です。

すると彼にとっては「人(若い女性)と話ができる」4,000円と「お酒を飲んで」愚痴を言いやすくする3,600円の合計7,600円がキャバクラの価値です。
でも、彼にとって必要なのはミニスカートでもなく、高級なお酒でもないのに、標準価格を払わざるを得ません。

その結果、彼には2つの選択肢があります。

1つは、可能な限り7,600円以下の安いところで済ませること。ただし、安すぎるところは女性に愚痴を聞いてももらえませんので検討対象から外します。客が女性を楽しませて上げなければならないからです。

もう1つは自分のプライドとキャバクラの価格を天秤にかけて、例えば標準価格の16,000円を支払う価値があるかどうかを測ります。

価格が高い、月のこずかいからそんなに出せないという結論が出れば、愚痴を言う場ではなく愚痴をこぼすブルーな気持ちを押さえるもっと安い手段を探します。

無視できない規模の接待モデル

キャバ3さて、市場規模が大きいので、標準モデル自体を変更して専用モデルを作った方が効率的なケースがあります。

良く見かけるパターンに、どう計算してもその男性にとってキャバクラの価値は8,000円しかないのに、15,000円のキャバクラの女性を指名し続ける人がいます。

この差額、4,000円は実は女性を口説く準備金のようなものです。
10回通えば4万円、20回で8万円。
キャバクラ客の約40%を占める「疑似恋愛」ニーズです。

また、標準モデルにはない要素を付加しなければならない層も存在します。
この層は人数は多くはありませんが、業界への売上げ貢献度で言えば1、2位を争う規模ですから別個のモデルが必要になります。

渡辺さんは女性を格上、格下という概念で認識する人です。
彼にとっては、高級な服やアクセサリーを身につけ、格上とされている場所に勤めて、高給を取っている女性は格上です。

従って、テレクラで出会う女性には興味がありません。
また、価格が安くても自由ケ丘のクラブやキャバクラへは行きません。
Value for money ではないからです。絶対額が安くても、「彼にとって」の女性の格が低いので価格とのバランスが取れないからです。

ご察しのとおり、古いタイプの中小企業の経営者がこのモデルに当てはまります。
標準モデルに対して「中小企業の社長」モデルと命名し、独立させたほうが使い勝手は良くなります。

類似モデルに接待市場があります。接待には、

「私はあなたを格上だと思っています。
だから、お連れするのも格上の女性が接客する格上のお店です」

というサインを投げかけることが必要だからです。

場合によっては、価格自体が独立して価値を持つ場合があります。
つまり、店の質を自分で判断できる、できないは別にして、そのお店の「価格が高い」ことが知られている場合は、

「私はあなたをこんなに高い店にお連れしているんです」

というサインになります。

例えば「銀座」という地名はある種その「価格感」の証明になります。
(今回は紙面の都合で説明しませんでしたが、宝石や毛皮などの高級品はこういった「価格が独立して価値を持つ」性格があります)

戦略的な業態開発とは

キャバ4さて、価格の構造が判れば、それを組み替えることで新分野を開拓することが可能です。

キャバクラでのパンチラが、実際の街でのパンチラと競合した結果、市場価値が相対的に落ち込んでしまっています。しかも、キャミソールなどインナーのアウター化で、ブラチラや胸チラすら街で提供されています。しかも無料。

この分野に限っていうとキャバクラは太刀打ちできません。
かといって、過激なサービスを始めたのでは、恋人市場と競合してしまいます。
いや、その前に風俗とぶつかる可能性もあります。

そこで、2つの可能性が考えられます(いえ、現実に存在するので「考えられました」とするのが正解です)

1つは現在のキャバクラの延長上ではありながら、街でのパンチラ市場(?)と差別化を図ろうとするものです。

「街でのパンチラが偶然であるなら、必然的に、しかもショーアップして(バカバカしくして)見せてしまおう」

という発想です。
つまり、「見たいときに、見たいものを、見たいように、見せる」のがここでの価値なのです。

一世を風靡した新宿ノーパンしゃぶしゃぶ「ローラン」はこの発想が原点でした。
また、「お立ち台パブ」と称する東京新宿の「六花」ではお酒を注文すると、円形のカウンターの中の舞台がボタン一つでせり上がります。加えて、舞台に設置してあるノズルから空気が勢い良く噴出します。結果、女性のミニスカートが舞い上がり、下から客がスカートをのぞき込む格好になるのです。女性はひざをかわいく曲げてご挨拶。

色気よりバカバカしさ、真面目に舞台まで作ってしまうおちゃらけ。
喜劇は真剣にやるべし、の見本のようなお店です。

この店には私も何回か行ったことがあるのですが、不思議なことに、連れの友人のうち90%が店を出て開口一番同じことを言います。

「あぁ、男に生まれて良かったぁ」

もっともこの話をした女性はすべてきょとんとして、「何で?」と聞き返しましたが(笑)

牛余談ですが、ノーパンしゃぶしゃぶは現在経営者を変えて営業しています。
主要顧客は医者や弁護士。
警察に気を使ってパンチラもおさわりもないのに、女性従業員の時給が8,000円という、実に奇異な存在です。

汚職などで騒がれたパブリシティ効果がここでの価値です。
「あの話題のローランに来ているんだ」です。
極めてまれなケースですが、通常の商品と同じく「ブランド」を作ってしまったのは、偶然とはいえ見事です。

価格要素の構成を変えるもう1つの発想は、「風俗や恋人」と現在のキャバクラの持つ色っぽさの中間市場を開拓する方法です。
パンチラの代わりに「おっぱいを触る」サービスを提供する新しい業態の誕生です。

一時期のストリップや阿倍野スキャンダル等のように、局地的には同様のサービスが存在しましたが、全国的に1つの業態にまで発展した例はありません。

この場合、代替手段や類似店が存在しないので、価格設定は難しくなります。
あえていえば、おっぱいが触れて最も安い業態は恐らくピンクサロンの1万円前後の価格でしょう。このうち射精やキスの価格を2/3とすると、残りの3,500円程度がおさわりの価値となります。

すると、通常のキャバクラに3,500円を上乗せした価格がおさわりパブの適正価格となります。

事実、おさわりパブが大人気になった昨年の平均価格帯は40分で13,000円~14,000円。1万円が相場のキャバクラとの差が3,000~4,000円。
偶然か必然か、合致しています。

(ちなみに、これは東京での価格帯です。福岡を中心とした西日本、静岡を中心とした中部地方では、地元での価格帯に合わせています。残念ながら、札幌を除き、北日本にはこの業態はありません。悪しからず)

価格には理由が必要

中高年向けの雑誌「サライ」の通信販売で、3万円のじゃがいもに注文が殺到しました。
何ということはない。単なる3千円の誤植だったのですが、編集部が注文客にお詫びの連絡を入れたところ、大半が「3万円のじゃがいもって、どんな味がするのだろうかと思った」から注文したということでした。

価格が一人歩きして、価値を持ってしまった例です。逆な言い方をすれば、価格にはきちんとした理由が必要だということを表しています。
高すぎる場合は当然ですが、安すぎても理由が必要です。

「こんなに安いのには何か理由があるはずだ」

それがマイナスに出てくる場合は「品質が悪い」「キズ物」「まがいもの」という発想になります。
それを逆手にとったのが無印良品です。

「形が悪いというだけで従来なら廃棄していたもので、中身は同じです」

不況前なら「安い」だけでは売れませんでした。
でも今なら大きな、そして、どんな商品にも適用できる「理由」があります。
「不況」という2文字です。
誰もが納得する大きな説得材料。

不況を売りの道具にする。
商いの根性というのは立派なものです。
日本もまだまだ捨てたものではありません。

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