■自分自信の舞台裏2-あれから1年後の「私はこう見る」 【「私はこう見る」メールマガジン】

一万円

1万人達成、ありがとうございました

読者の皆さんにご報告いたします。
おかげさまで、「私はこう見る」の登録読者数が1999年11月1日で、1万人を超えました。
10,023人。
雑誌連載記事の平均注目率は2~5%なので、50~20万部の発行の雑誌連載に相当する読者数です。ananやフォーカスには負けますが、週間SPA!や日経トレンディクラスといえばわかりやすいでしょうか。
昨年10月の創刊以来13ヶ月間、創刊当初の勢いはありませんが、今でも、読者数は1ヶ月で700~800人くらいのペースで増え続けています。

ありがとうございます。
読者の皆さんのおかげで、ここまで来ました。
この場を借りてお礼を申し上げます。

98年10月に「私はこう見る」の導入戦略をテーマにした記事を発表しました。メールマガジン市場に参入するための戦略を題材にしたもので、おかげさまで、読者評価もかなり高く、34本の過去記事でもトップ3に入る高い評価を頂きました。
まぐまぐのたった100字の、何げない誰でも書けそうな説明文の裏に、マーケティングに基づいた計算があったこと。その結果として2冠王獲得という事実に説得力があったこと。それらに驚かれた読者から様々なコメントを頂きました。「要するに私は森さんの策略にはめられたのですね」と賛辞が多かったのが特徴の記事でした。

あれから1年、当時の皆さんにお約束したとおり、続編をお送りします。
前回が「導入戦略」ですから、今回は「成長戦略」。
初戦の成功をバネにどのようにして読者数を増加したかについて、コンサルタントの思考回路を解説します。

市場導入に当たって前回検討したのは、どんなメールマガジンにするか、まぐまぐの説明文をどういう感じで作るのか。一般商品でいえば、市場参入に当たっての商品開発とコミュニケーション開発を検討した訳です。
一旦、商品が市場に出てしまえば、今度はその商品をどう育てるかが大事になります。ですから、この記事のテーマは「ブランド育成戦略」ともいえるものに仕上がっています。

なお、この記事は単独でも楽しめるように書きましたが、前回の「導入戦略」とペアでご覧になるとより一層理解が深まります。まだ読んでいない方はもちろん、内容を忘れてしまった方も、一度、ご覧下さい。

■自分自身の舞台裏・「私はこう見る」市場導入戦略【「私はこう見る」メールマガジン】

1年後の評価は「合格」

まず、導入時の目標達成状況を振り返ります。
導入戦略の時は5,500人の読者数を最終目標としました。
現在10,000人の読者登録を考えると軽々とクリアしているように見えますが、これは当時のメールマガジン市場での仮の数字です。ビジネス系メールマガジンの総読者数の2.8%のシェア。これが真の目標です。

現在の市場規模で換算すると、目標数字は10,000人。1年後の現在で、ようやく目標に到達したといえます。「私はこう見る」は、ようやく一人前になったばかり。プロとして恥ずかしくない成果をあげることができました。

【注】「企業・ビジネス」のカテゴリーの捉え方は書店でのそれを応用してシェアを算出したところ7,705人。結果的に「私はこう見る」に有利になっているので、ほぼその1.5倍の10,000人を目標数字に設定しています。

市場成長期での成長戦略は簡単

一旦、世に出した商品を育てるのは、市場が成長期だと実に簡単です。
バブル時代のように、どんなことをやっても売上げが上がるからです。メールマガジンでいえば読者はどうやっても伸びる。減ることはありません。
しかし、これだけで終わってしまってはコンサルタントの立場がありません。先を見すえた手を売っておく必要があります。そうでないと、市場成長が止まったときに苦労します。皮肉っぽい言い方をすれば、一見簡単、実は極めて難しいのが成長戦略です。

では、市場が成長しているときには何が最も大切か。
成長の波に乗ることです。
どうすれば、波に乗れるか。
他の競争相手とほとんど同じ事をすることです。

ただし、うまくその波に乗りつつ、少しずつでも他の競争相手より前に出ないといけません。特に、私より時期的に前に創刊されたメールマガジンとの差を縮めなければ、読者数は増えてもシェアは同じになってしまいます。そうなると再三言うように市場全体の成長が止まったときに苦労します。
かといって、先を急ぐあまり、差別化をしすぎてもいけません。市場成長の波に乗れなくなってしまうからです。香辛料程度にちょっとだけ差別化をするのが吉です。

「私はこう見る」の場合、導入期にすでに差別性を意識して執筆方針を決めました。だから、実際はその差別化ポイントがきちんと差別性を維持しているかどうかを、新規参入の競合メールマガジンを見ながら、チェックすることで事足ります。

では私は、具体的にはどうしたか。
「私はこう見る」の最も重要なまぐまぐの説明文。これについては、1年間一切手を入れていません。一字一句同じです。
ただ、例えばドリキャスは死んだも同然ですから、今更「ドリキャスはどうなる?」といっても興味は引きません。創刊1年後に事例だけは変更しました。

なお、ドリキャスや桃の天然水には読者獲得のお世話になりました。
ドリキャスは発売直前から数カ月、桃天はカビ混入事件の時に、インフォシーク等のキーワード型検索エンジンでそれぞれを検索した方が大挙して訪れてくれました。

話を戻しましょう。
実際、まぐまぐ10,628種類のメールマガジンの中で、「私はこう見る」は1999年10月21日現在で189位 (出典 : Selfbiz News) にまで上がっています。

■「私はこう見る」の発行部数の推移 (各月末)

時期 まぐまぐ ココデメール Pub
zine
ウェブトースト ページ会員 合計 増加数 増加率
1992/4 3,780 300 15 666 4,761 624 15.1%
1992/5 4,260 350 67 774 5,451 690 14.5%
1992/6 4,876 400 95 895 6,266 815 15.0%
1992/7 5,653 450 155 974 7,232 966 15.4%
1992/8 5,996 500 195 1,036 7,727 495 6.8%
1992/9 6,420 550 424 1,125 8,519 792 10.2%
1992/10 6,882 650 487 24 1,200 9,243 724 8.5%
1992/11 7,228 888 517 42 1,348 10,023 780 8.4%

【注】ココデメール4月~10月は推定値。11月は1日の値。

■配信システム別読者構成比

配信システム 発行部数 構成比
まぐまぐ 7,228 72.1%
ココデメール 888 8.9%
Pubzine 517 5.2%
ウェブトースト 42 0.4%
E-Magazine 0.0%
ページ会員 1,348 13.4%
合計 10,023 100.0%

ランキング

説明文の効力が続いているのは、まぐまぐ以外の配信システムの読者獲得状況を見ても分かります。ココデメール、めるぼっと等の、まぐまぐに続いて新設された配信システムに新規登録をすると、登録メールマガジンはみんなスタートラインは同じですが、その中で、「私はこう見る」はビジネス系で常にベストスリーに入るのです。

Pubzineだけはまぐまぐの管理体制に反目した発行者達が、今までの読者を引き連れて大挙して移行したので、スタートは他のトップクラスの規模のメールマガジンと比べて遅い成長でしたが、今では順調な伸びを示しています。

「何も変更しないこと」は、そこに意志があれば、最高の戦略となり得るのです。

基本中の基本、流通戦略

競合相手と同じ事をするのが成長戦略では大事だといっても、最低限、押さえなければならない戦略ポイントがあります。競合相手が実行していないものでも、きちんと実行しなければなりません。

まぐまぐマーク

それらをマーケティングの基本である4Pに従って解説します。
ちなみに、4Pとは以下の4つの戦略のことです。

●製品戦略(Product)
●価格戦略(Price)
●流通戦略(Place)
●コミュニケーション戦略(Promotion)

記事の構成上、順番が異なります。ご了承下さい。

マーケティングの基本中の基本は流通戦略です。
そして、新製品の売上拡大を考えるなら「配荷を高める(取扱店を増やす)」これ1本です。
イトーヨーカドーだけでしか売っていない商品より、ダイエー、ampmでも、そしてソニープラザでも買えるようにしておく方が売上が伸びます。逆に、いくら良い商品を作って広告をバンバン流しても、扱店数がなければ1個も売れません。

メールマガジンでいえば、配荷率の向上とは、できるだけたくさんの配信システムを扱うことに他なりません。加えて、それぞれの配信システムが自分の存在をアピールし、読者を獲得しようとすればするほど、成長期では市場全体が伸びるので「私はこう見る」もその恩恵をこうむることができます。

「私はこう見る」では下の7つの配信システムから記事を配信しています(いました)
これらの配信システムを合計すると、メールマガジン全体の流通量の8割をカバーしていることになります。登録はもちろんできるだけ早くするのが鉄則です。先手必勝。これに勝る戦略はありません。

●まぐまぐ
●ココデメール
●Pubzine
●ウェブトースト
●E-Magazine   【99年11月スタート】
●フライヤーマシン【99年8月に母体が廃止される】
●メルポット   【99年7月に母体が廃止される】

例外は、ニフティのマッキーとクリックインカムです。
マッキーはバックナンバーを強制的に公開させられるので、候補から外しました。
クリックインカムは広告を記事中に掲載しなければならないので、これも対象から外しました。コンサルタントは中立でなければなりません。特定企業との結びつきはマイナスです。

コミュニケーション戦略と価格戦略

私はこう見る一般商品では成長期の広告戦略はかなり重要です。
「知らなければないのと同じ」ですから、商品の存在を知ってもらわなければ話になりません。
メールマガジンでいうところの広告はリンク促進や検索エンジンへの登録です。
「私はこう見る」では、51の検索エンジンに登録しましたが、それ以外に、実は、表立って広告戦略を実施しませんでした。
その理由は後でお話しします。

価格戦略については無料メールマガジンですから、意識することは特にありません。
「無料なんてもったいない記事の質」とお褒めのことばを頂くことも多いですが、私自身、このメールマガジンに関しては「お金」という概念がないのです。元々、記事を発行していくうちに読者とのやり取りが面白くなって、ほとんど趣味のようになっているからです。

コンサルタントは原材料が人件費以外では紙と鉛筆のような世界ですから、アイデアや文章などでお金を稼ぐという行為がいかに大変なことなのかが身に染みて分かっています。だから、こんな駄文で金を稼ぐなんて「お天道様に申し訳ない」いや「本業様に申し訳ない」という感覚です。

ご参考までにお話をしておけば、このメールマガジンの運営には私の人件費抜きで、年間180万円が必要です。その70%が読者の声とバックナンバーの編集作業のバイト代です。本業が順調でないと支払える金額ではありません。もし、今後、有料化という話が出たら、シストラットの経営がしんどくなってきたか、私に欲が出て業務拡大を画策しているかのどちらかでしょう(笑)

なお、先日の会員専用ページURL公開事件の際に有料化を示唆したのは、約1万人のID登録・管理に、初年度で80万円のコスト増加が見込まれたからです。さすがに、会社に負担させるのは、社長の趣味の許容範囲を超えているという判断です。

製品戦略は一番大事にしたいもの

ダイム導入期では極めて大切ですが、一般商品の成長戦略では特に気にする必要がないのが製品戦略です。いいものを作って、それが市場成長の波に乗りさえすれば、無闇に手を入れないほうがいいからです。成長期の中盤から後期にかけては姉妹品の発売などのファミリー戦略が必要になりますが、メールマガジンでは「私はこう見る・上級編」とか「私はこう見る・女性版」のような形に発展させるにはまだ早い施策です。

しかし、「私はこう見る」では、あえて製品戦略を最も重要な戦略として位置づけました。商品の質、つまり、記事の面白さです。
理由はいくつかあります。
しばらくおつきあいください。

普通の商品は一度開発した後にきちんと売れていれば、内容を変えることは減多にありません。たばこのラークはいつまでたってラークです。商品に問題がないのに、葉たばこのブレンド比率を変えて味を変えるのは愚の骨頂です。
しかし、雑誌を筆頭とするエンターテイメント産業は同じ名前(雑誌名)で、内容(記事)が変わるという非常に面白い性質をもった商品です。ミュージカルのように、内容を変えないで長期的に売るケースはむしろ稀です。

すると、商品の製造者である私の資質が毎回問われてしまいます。
一定の品質(面白さ)を担保しなければならないからです。
これは、数冊の本を除けば、他人様に読んでもらう長い文章を初めて書く私にとって、大変難しいことです。

加えて、読者の受ける印象や面白さがある一定の方向を向いていなければなりません。いわゆるコンセプトの維持です。週刊SPA!はどんな記事を書いても、週刊SPA!らしい切り口や内容でなければなりません。週刊ポストと同じであってはならないのです。

これは、考えようによっては、隔週で姉妹品開発をしているようなものです。
マイルドセブンを作った翌々週にマイルドセブン・ライトを作り、その次の月にはマイルドセブン・メンソールを開発する。コンセプト(商品特徴)やベネフィット(生活者が受けるメリット)はどこか同じにしておきながら、親ブランドや兄弟ブランドとの差別性を図らなければならない。
そのコツは本業で経験豊富ですが、なんにせよ頻度が圧倒的に多い。

実際にメールマガジンをスタートしてみると、思っていたとおり大変な作業でした。従って、成長戦略における「私はこう見る」の第1目標は「品質の安定と向上」にせざる得なかったというのが本音です。

ここで、唯一の羅針盤になるのが読者の声です。本業のように10ページにもわたるアンケート調査を分析・検討してじっくりと構えることができないメールマガジンにとって、読者の反応が最大のヒントなのです。
読者の方には私は良く「読者のコメントが記事執筆に大切です」と返事をしますが、お世辞でもなんでもありません。

データという指針があるのが当たり前になっているコンサルタントにとって、生活者評価データのない仕事は下着をつけないでスーツを着るようなものです。
物足りない、不安、落ちつかない。

製品戦略-3回に1回の感動

書店記事の質を維持・向上するのが「私はこう見る」製品戦略の第1目標とお話ししました。
しかし、毎回、すべての読者に感動を与えるのは、私の技量では不可能です。というのも、読者は「マーケティングの初心者」という唯一の共通点があるものの、それ以外は皆さん、様々な価値観を持っているからです。

それぞれの読者の関心事をすべて盛り込もうとすると、表面をなぞるだけの毒にも薬にもならない記事が毎回出現します。これでは、読者はついてきてくれません。百貨店は退屈だけど、パルコなどの専門店集合体ビルはメリハリがあって楽しいのと同じです。従って、2つの方向性で記事を構成するようにしました。

●何回かに1回は面白い記事に遭遇する
●ちょっと読者側で工夫をすれば、毎回おもしろく読めるような仕掛けを作っておく

まず、第1の点です。
「3度目の正直」ということばがあるように、人間は2回までしか我慢をしてくれません。許してくれないと言い換えても良い。
これは、本業でも様々な数字が出ています。
細かい話は省きますが、例えば、車のメーカーで新車や新モデルで3回続けて人気のないものを作ってしまうと、一気にそのブランドのロイヤリティが下がる。飲料では、3回つまらない広告をすると、他の競合にシェアを奪われる確率が格段に高くなります。

それを逆に応用して、3回に1回はおもしろいと思える記事をマーケッター五郎さん向けに作り、他の2回は我慢してもらう。次の記事はまりさん、3回目はアイさん向けとローテーションを組むわけです。
言うのは簡単ですが、実行するのはかなり大変でした。いや、今でも苦労しています。というのも、記事を発表する前にマーケッター五郎さんが記事を気に入ってくれるかどうかが分からないからです。

マーケッター五郎さんには今まで2回我慢してもらっていました。だから、今回は彼が気に入るだろうと「私が」思っているものを用意しました。しかし、フタを開けてみると意外にも彼はご不満の様子。
「しまった」と思ってもあとの祭りです。次の回で彼が再び気に入るだろうと思う記事を用意しても、すでにマーケッター五郎さんはメールマガジンの購読を解除した後です。

彼をもう一度読者に引き戻すのは至難の技です。
一般商品でも、試食や試し買いをして、離れてしまった消費者を引き戻すのはかなり困難です。常連客に1つ余分に買ってもらうためのマーケティング費用の30倍もかかります。ちなみに1回も買ったことがない人に買ってもらうためには、常連客の3~5倍のコストをかけなければなりません。
だから、メールマガジンでは毎回が真剣勝負です。

ローテーションというやり方は正しいのですが、私の力量との読者のニーズを読む力がまだまだ追いついていないという悲しい現実があるのです。

ローテーションにあたって、「私はこう見る」で気をつけている要素をリストアップしてみました。各記事はそれぞれの組み合わせで構成し、記事のテイストが偏らないように発表時期を調整しています。
例えば、痴漢の過去記事は発表が今年の9月でしたが、痴漢実験は昨年のことでした。ネタを1年も寝かせていたことになります。

●シリーズもの
▼業界や商品のシリーズ
▼生活者の意識変化シリーズ
▼自己啓発シリーズ

●ミクロ・マクロ
▼戦略史
▼深層心理

●マーケティング要素
▼全体戦略
▼商品戦略
▼コミュニケーション戦略
▼流通戦略
▼話題の旬の度合い

●辛口・ほめ殺し

●その他
▼女性心理
▼理論のむき出し度の高低
▼業界

製品戦略-毎回楽しめる仕掛け

残念ながら、すべての記事に興味を持ってもらうのは不可能ですが、読者のちょっとした工夫で、毎回記事が楽しめるようになります。
記事内容を自分が所属する業界や会社に当てはめてみるとどうなのだろうか、と考えるのです。このことは間接理解といいます。逆に自分の目前のものに興味を示すのは直接理解。
読者が間接理解をしやすいように、記事にはいくつかの工夫をしています。

●汎用的な理論をそれとなく説明する
●他の業種の例をさりげなく入れる
●「1位というのは」、「成長期に入っている商品は」などの一般的な単語を使う

これらの工夫は入れすぎると具体性がどんどんなくなってしまい、「身近な分かりやすい」記事にはならなくなります。従って、さりげない隠し味にとどめておくのが大切です。

残念ながら、間接理解は本当の初級者には難しい作業です。
発達心理学にもあるように、幼児の段階では目の前にある具象しか促えることができません。だから、箱の中におもちゃを入れてしまうと、消減したかのように周囲を探し回ります。彼には中に隠れるという「概念」がないからです。

それでも、読者の中には少なからず翻訳作業をして記事を毎回楽しんでいる人がいます。その人たちのためにも、また、このメールマガジンに触れるうちに成長する未来の読者のためにも、この仕掛けは大事にしています。

製品戦略-計算された脱線

皆さんによく指摘されるのが脱線です。
読者の声を見ていると賛否両論があります。
脱線のせいで記事が不要に長くなるので読みにくくなるというタイプと、脱線が楽しいというタイプです。
日経netnavi9月号では「計算された脱線」、アクティブ読者のマーケッター五郎さんからは「確信犯的な脱線」などという称号を頂いています。

友人から「森さんらしい脱線の仕方」などと言われるように、脱線は私のもともとの性癖です。ただ、メールマガジンではかなり意図的にコントロールしていますので、「計算」「確信犯」の指摘も当たっています。
毎回1万字というとてつもなく長い記事なのに、抵抗がなく読める工夫の一つがこの脱線なのです。

コンサルタントとして戦略企画書でも、調査分析でも、そしてこのメールマガジンでも、最も気をつけて細心の注意を払うのが、全体を貫くストーリーです。
ここでいうストーリーとは起承転結と呼んでも良いのですが、私の感覚では小説や映画のストーリーに近いものがあります。論文の起承転結とはちょっと違います。
どんでん返しがあったり、サブストーリーがあったり、笑いあり涙あり、動と静…。
私の感覚では起承転結という客観的なスタイルの枠組みではなく、小説という人間模様の表現。それがメールマガジンであり、本業の戦略分析・構築です。

皆さんにお見せできないのは残念ですが、本業の報告書ではターゲットという名前の主人公が、数字、グラフ、理論という表現ではあるものの、冒険活劇やラブロマンスを繰り広げる様を聴衆の頭の中にイメージしてもらう。そんな感覚で作っています。
(本当にアクションがあるなどいう訳ありません。念のため(笑))

脱線というサブパートを作ることは比較的重要ではない要素を記事から削ることになり、その結果、メインである全体を貫くストーリーがシンプルに作れます。そして脱線はそのストーリーを膨らませる役目を果たすのです。
(正直に告白すると、記事はの執筆には、業務や移動時間の合間に細切れ時間を使っているので、複雑なストーリー展開だと私が混乱してしまうという事情もあります)

「媒煙権」の記事を例にしましょう。
この記事を執筆した時のストーリー上のテーマは、クリスティやクィーン等の推理小説でした。主人公はコンサルタントの森です。
その彼が、例えば探偵物語のように聞き込みを重ねながら情報を絞り込んでいくが、最後のギリギリの決め手がない。そこにひょんなことから、ヒントを掴み真犯人を上げていく。

骨子のストーリーの組み立ては、こんな感じで決めていきます。
推理小説でも聞き込みや遺留品などを発見し、事件の関連性を洗い出しますし、殺人の動機や偽証などのそれぞれの証言から矛盾点を指摘します。
これのコンパクト版を作ろうとすると、結論に関係あるものないものが記事中に混在し、「脱線」と呼ばれるようになるというわけです。

ちなみに、嫌煙権の記事では「1日の喫煙本数120本の私」がかなり強調されています。
これには2つの理由があります。
1つは嫌煙権の記事を嫌煙者が書くのはトゲがあってシャレになりませんが、弾圧されている喫煙者、しかも、相当なヘビースモーカーが絶賛している方が記事として面白みが出ること(読者の反応を見ていると、やりすぎたかなと反省しています)

もうひとつは、個人的にエラリー・クイーン作品に出てくるクールで無気質な探偵ドルリー・レーンより、アガサ・クリスティのクセと愛嬌がある探偵ポワロの方が好きなので、その影響が強く出てしまったせいです。

他の記事では、iMacビールはドキュメンタリー番組、「みんなって一体誰なのさ」は映画「アウターリミッツ」をそれぞれイメージして書いたものです。
この記事は…うーん。普通の本業のノリで書いています(笑)

広告戦略としての記事の質

質の高い記事は、同時に成長戦略でも最も重要なコミュニケーション戦略にも良い影響を与えます。
その理由を実際の例を見ながら説明しましょう。

「私はこう見る」の読者獲得割合を見てみると、こんな感じになります。

■「私はこう見る」の読者獲得

【配信システム経由】 67%
  まぐまぐ経由 (55%)
  Pubzine経由 ( 5%)
  ココデメール経由 ( 7%)
【雑誌経由計】 28%
【個人リンク等経由】 5%

メールマガジンの最大手まぐまぐで「私はこう見る」の存在を知り、読者になった人が最も多いのは想像どおりですが、書店売りの雑誌で「私はこう見る」が紹介されたことによる読者獲得数が実に全体の1/3にもなります。
これらの紹介は友人に頼んだわけでも、泣き付いた訳でもありません。赤の他人である雑誌編集者やライターの方々が「私はこう見る」を気に入って頂いた結果です。

「私はこう見る」だけでなく、メールマガジン全体が成長期ですから、各誌はメールマガジンに注目し、特集や紹介記事を組むことが多くなります。その中で、ビジネス系のメールマガジンは最低でも2~3誌は入る。その1誌になれば「私はこう見る」の実力以上に紹介される頻度が高くなり、読者が増えるというものです。

その結果、下の各誌で紹介されています。

■書店売り雑誌等の紹介記事

媒体 時期 備考 & 紹介文
メルマガイド2000 99年11月 単行本
Yahoo! Internet Guide 99年10月29日発売号 メールマガジン特集
デューダ関西版 99年10月下旬発売号 仕事に役立つホームページ紹介
日経ネットナビ 99年9月29日発売号 メールマガジン大全
まぐわーるど 99年3月25日 メールマガジングランプリ部門賞受賞
インプレス INTERNET Watch 99年3月25日 ウォッチャーが選ぶ今日のサイト
インターネット ascii 99年1月26日発売号 メールマガジン情報
あちゃら 99年1月29日発売号 ビジネス系メールマガジン特集
DOPPO (独歩) 98年12月22日発売号 SOHO向け雑誌

当たり前のことを当たり前に。ただし、徹底的に

「私はこう見る」の成長戦略ポイントは、記事の質を高める製品戦略と申込をしやすく、たくさんの人の眼に触れる流通戦略の2つに他なりません。

「良いものを買いやすい環境に」

成長期におけるマーケティングの基本はこれだけです。実にシンプル。

「良いものを作れば売れる訳ではない」
と良く言われますが、その半数以上は次の3点のどれかが原因です。

●「良いもの」の定義が違っていた
(技術者から見た良いものと、生活者の良いものが違う)
●基本は実行しているものの、中途半端だった
(マーケティングの基本思想は「当たり前のことを当たり前にする。ただし、徹底的に」です)
●成長期でもないのに成長期の戦略を実行してしまった

シンプルであるはずのものを複雑にしてしまうと混乱するだけです。
「そんなこと、もうやっているよ」という理論でも実は徹底的に実行していなかったのでうまく行かず、他の方法を探しまくっている図は良く見かけます。本当は無駄な時間を使うのはもったいない話なのです。

一方でこれからの問題もあります。
メールマガジン全体の普及率がたかだか3~4%の今だからこそ「私はこう見る」のような、少人数の手作りマガジンが高い評価を頂いているものの、普及率が30~40%になり採算ベースに乗るとなれば、大資本が参入してくるのは間違いないでしょう。
大手出版社のようなところが、従来の記事作りのノウハウを応用し、大量の編集者とライターを動員して質の高い作品でメールマガジン市場に参入してくる可能性は否定できません。

また、最近起こった会員用URL公開事件や、ケンカメールが数少ないとはいえ毎回届くようになった等、会員数が増えた事による弊害も出てきました。これを規模が大きくなったことによる勲章と捉えるか、運営に手間がかかるようになったと捉えるのかで、会員増大の是非についても検討しなければなりません。

そんな近い将来の状況変化が起こった時に、「私はこう見る」の戦略、そして実行体制をどうするのか。今までのように手作りのまま続けるのか、組織力を高めていくのか、それとも撤退するのか。
一番、興味津々、わくわく、ハラハラ、ドキドキしているのは私自身なのかも知れません。
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